2018年7月5日

住宅を解体する際に、アスベストの除去工事をすることになった方が注意すべきこと

人体に甚大な健康被害を及ぼす「アスベスト」は、近年ニュースや新聞などでも取り上げられています。築年数が40年以上の古い建物を解体する場合は、アスベスト建材が使用されていることがあるため、法律を遵守して適切な除去および処分を行わなければなりません。ここでは、アスベストの除去工事の流れと注意点についてご説明します。

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アスベストとは何か?

住宅解体

アスベスト(石綿)とは、天然に産出された繊維状ケイ酸塩鉱物の総称です。耐久性、耐熱性、電気絶縁性に優れ、かつ値段が安かったこともあって重宝されていました。
日本では1955年から1975年代の高度成長期にかけて、防音材、保温材、断熱材などの建築建材、として幅広く使用されています。

一般住宅では屋根、壁、間仕切り材、床、天井などに用いられていることがあります。 その他、集合住宅では、鉄階段の裏側、駐車場、機械室の天井、壁などに吹付けられていることが多いようです。

どんな危険性があるのか

安価な建築建材として様々な効果が得られるアスベストは、これまであらゆる建築物に使用され続けていました。

アスベストの石綿繊維を長い間吸い込んでいると、せき、呼吸困難などの症状が現れたり、中皮腫、肺がんなどの疾患を発症し、人体に甚大な健康被害を及ぼすことが明らかになりました。

そのため、2006年に労働安全衛生法施行令が改正され、0.1%以上のアスベストを含む資材の製造及び使用、輸入等が禁止されました。 すでにアスベストが使用されている建築物の解体、改修工事を行う場合は、「大気汚染防止法」に基づいて、的確に処理されることが定められています。その他、各地方公共団体の条例による規制がある場合についても同様です。

「労働安全衛生法」、「石綿障害予防規則」、「建設リサイクル法」、「産業廃棄物処理法」、「建築基準法」の各関係法令を遵守し、専門の業者によって除去、処理しなければなりません。

アスベストを含む物件の解体工事の進め方

アスベストに関する規制は、1975年から2006年までの間に何度か改正が行われてきましたが、その期間の建築物については、少量のアスベストを含む資材の使用は禁止されていなかったため、アスベスト含有物件である可能性が高いといえます。

従って、アスベストの使用が予想される建物を解体する時は、解体前の調査が必須です。 調査後、アスベスト含有物件という判断を受けた場合は、期日までに書類の届出を行い、適切な手順に沿って除去処分を行わなければなりません。

アスベスト含有物件の解体工事は大きく以下の5項目に分かれます。
各項目について簡単に説明しますので、大まかな流れを把握しておきましょう。

・事前調査

・各種書類の届出

・着工前準備

・解体工事(除去・処分)

・整地

1.事前調査

●図面調査

アスベストの使用有無は、図面や設計書に記載されている建材名や、築年数からある程度は判断できます。しかし、古い建物では図面や書類が残っていることが少ないため、築年数から判断することもあります。 図面調査は、あくまでも判断基準の目安と捉えて下さい。

●現地調査

実際に業者が現地に行き、対象となる建物の天井、壁、柱などの目視調査を行います。 ただし、鉄骨建物の場合は、吹付けや耐火被覆板を使用していることが多いため、サンプルを採取して分析をします。

●定性分析

「定性分析」とは、採取したサンプルにアスベストが含まれているかを調べることです。 分析は顕微鏡やX線回析装置を使用して行われます。

●定量分析

定性分析により、アスベストが含まれていると判断されたサンプルのを調べます。 分析により含有率が0.1%を超えているときは、規制対象となります。

2.アスベストを解体する際の届出

アスベストを含有する物件を解体する場合は、アスベストの「3段階の発じん性レベル」に分けられます。 所有する建物が該当した場合は以下の届出を行わなければなりません。

発じん性とは、紛じんが発生する危険性を示したもので、飛散性とほぼ同じ意味です。レベル数値が低いものほど危険性が高く、解体時に粉じんが大量の飛散するため、作業員や近隣へ悪影響を及ぼします。

ご自身の所有する建物が発じん性レベルが1、2に該当する場合は、解体工事の着工14日前までに各都道府県へ提出しなければなりません。

また、平成26年6月1日より改正大気汚染防止法が施行され、「特定粉じん排出等作業届出」は、届出の義務者が「工事施工者」から「発注者(施主)または、自主施工者」に変更となりました。

延べ床面積が80㎡以上の建物を解体する際は、工事着工7日前までに「建設リサイクル法」に関する届出を、施主が各都道府県に提出することが義務付けられています。

レベル1

・工事計画届:工事着工14日前までに所管の労働基準監督署長へ提出

・特定紛じん排出等作業届書:工事着工14日前までに都道府県知事へ提出

・事前届出の実施:工事着工7日前までに都道府県知事へ提出

・建築物解体等作業届:作業前に所管の労働基準監督署長へ提出

レベル2

・特定紛じん排出等作業届書

・事前届出の実施

・建築物解体等作業届

レベル3

・事前届出の実施

3. 着工前準備

●近隣へのあいさつ

近隣へのあいさつは、苦情などの近隣トラブルを回避し、スムーズに工事を進めていくためにも必ず行って下さい。 その際、業者の担当者も一緒に同行してもらい、アスベスト除去工事について説明してもらうことが大切です。

●工事の周知、足場組立

近隣へアスベスト除去工事を行うことを周知するため、工事内容を知らせる掲示物を設置します。その際、立入禁止飲食喫煙禁止有害性の掲示なども用意しておきましょう。 作業の規模にもよりますが、建物の周りに足場を組みこともあります。

●引込配管、配線の撤去手配

ガスや電気がつながったまま工事を行うのは、大変危険です。そのため、施主は工事着工前にガス、電気、電話の引き込み配管や配線の撤去の手配を行ってください。 水道は、防じんのために業者が使用することもありますので、撤去して問題ないか業者に確認をしておくと安心です。

4. 解体工事

アスベストを含んだ物件は、有害物質を近隣に飛散させないために通常の解体工事よりも、入念な安全対策を施してから工事を進めていきます。

アスベストの除去作業

●建物内部の残存物撤去

アスベストを含んでいる部分を残して、畳、建具など建物内部の物をすべて撤去し、建物内に何もない状態にします。 家具や電気製品などの不用品も、解体工事が始まる前にすべて撤去します。

●作業場所の隔離、密閉養生

足場に養生シート(PETシート)を設置して、作業場所を完全に隔離して密閉します。 これにより、アスベストが周囲に飛散することを防ぎながら安全に作業することができます。

●粉じん飛散抑制剤の散布

アスベストを含む物件を解体するときは、「除去工法」が用いられることが多々あります。アスベスト飛散防止のため、除去する前に人体への被害が少ない抑制剤(無機系薬剤)を含有部分に散布し、アスベストの層を下地から取り除きます。

※その他の処理方法

「封じ込め工法」:吹き付けられたアスベストの層はそのまま残しておいて、表面などに薬剤を塗ることで固定化させ、 飛散させないようにする工法

「囲い込み工法」:封じ込め方法と同様に吹き付けられたアスベスト層はそのまま残し、板状の非石綿建材などで覆うことで、粉じんの飛散防止や衝撃を与えないようにする工法

●アスベストの除去

アスベストを含んだ建材を切断、破砕などで除去します。 作業員は作業レベルに適したマスク、使い捨てできる保護衣、作業衣を装着して作業を行 うことが義務付けられています。

アスベストの除去作業後~処分まで

●除去アスベスト減容化、袋詰作業

除去したアスベストを廃棄物として処理するため、アスベストの容積を真空圧縮させて処分しやすくします。そして破棄する際は、飛散しないように丁寧に取扱い処理を行います。

また作業員が使用した保護具や作業衣についても、付着したアスベストが飛散しないように適切な処理してなくてはいけません。

●建物解体

最初に内装材、窓ガラス、サッシなどを撤去します。次に屋根、梁、柱、外壁を順に解体していきます。その際、ホコリが周囲に舞い上がらないように散水を行いながら作業を行います。

●仮設物等の撤去、清掃

工事終了後、仮設物の撤去及び清掃を行います。特に隔離養生を撤去する際には、アスベストが飛散しないように、より丁寧な作業及び清掃が必要です。

●最終処分場へ運搬、処分

アスベストやその他の廃棄物を適正に処分するため、最終処分場への運搬、処分を行います。特別管理産業廃棄物の「廃石綿等」として収集、運搬、処分の基準が定められていますので、他の廃棄物とは区別しなければなりません。

処理を産業廃棄物業者に委託する場合は、処理委託契約の締結および、マニフェストの発行が産業廃棄物処理法により義務付けられています。

5. 整地

解体後は、産業廃棄物などが地中に残っていないかを確認します。問題がなければ敷地内の地面を平らに整地します。今後の土地の用途などによって、真砂土や砕石など適切な整地材を使用しましょう。

アスベストを含む物件の解体費用

アスベスト除去工事は100万円~200万円の費用が必要です。
費用の内訳は除去作業が半分で、もう半分は除去したアスベストを処分する費用です。
そのため、アスベストは使用されている部位によって、費用に大きく差が出てきます。また、発じん性レベル数値が低いものほど費用が高額になる傾向にあります。

解体時の注意点

最後に、アスベスト含有物件の解体時における2点の注意点について説明します。 まずは、発注者である施主にもアスベストに関する管理責任が義務付けられたことについて、触れておきたいと思います。

1.アスベスト除去に必要な資格者がいる業者を選ぶ

アスベストは有害物質のため、作業員や近隣へ被害が及ばないように、適切な除去および処分を行わなくてはいけません。必ずアスベスト除去の専門業者に依頼してください。

なるべく工事の実績が豊富なところに依頼し、法律を遵守した作業を行う業者であることが大前提です。 特にレベル1に相当する吹き付けアスベスト処理は、発じんせいが非常に高いため、作業員の処理技術や知識が必要です。

業者は以下の資格者を置くことが義務付けられているため、有資格者が在籍しているか注意しなくてはいけません。

・石綿作業主任者の選任

・労働者全員に石綿特別教育を実施する

・特別管理産業廃棄物管理責任者の設置

2.事前調査をしっかりと行ってもらう

事前調査は、適切な工事計画や見積金額が提示されるため、アスベスト含有物件以外の一般の解体工事においても重要です。

特にアスベストを含む物件は、サンプルを採取して成分や量を分析する作業が、工事をスムーズに進めていくための基盤となります。 サンプルなどの採取や分析を怠り、解体途中でアスベストが見つかると、工事を中断せざるを得なくなることもあります。

そうなると、工事計画や届出を最初からやり直さなくてはならなくなり、業者、施主の両者ともに負担がかかります。金銭面でも予定外の出費になってしまいまうため、事前調査の精度には注意しましょう。

まとめ

アスベスト含有物件の解体工事をする時は、業者任せにするのではなく、施主も大まかな工事の流れや届出書類について把握しておかなければなりません。
主な注意点を下記にまとめました。

・発じん性レベル1、2に該当する解体工事で必要な「特定粉じん排出等作業届」は、提出者が施工者から発注者に変更

・業者は施主や発注者に対して、解体等工事の事前調査、説明等を行い、その結果を工事現場に掲示しなくてはならない

業者選定の際は有資格者が在籍しているか、法律を遵守した解体工事や届出を行ってくれる業者であるか、しっかりと見極めてから依頼して下さい。 アスベストは危険な物質のため、きちんと除去をして近隣の方に迷惑をかけないように工事をしましょう。

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監修者:

渡邊 一伸(ナベさん)

大工歴35年。大手ハウスメーカーで2年間現場監督に従事。3000棟以上のリフォーム・住宅修理の工事管理の実績をもつ。阪神淡路大震災においては1年間復興財団に奔走。その後、独立し、会社を10年経営。2016年に1月に株式会社ローカルワークスに入社。