耐震補強とは
耐震補強は建物の耐震性能を向上させ、地震が起きた際に建物の倒壊を最小限におさえて、住人が安全な場所に避難するということを目的として行うものです。主に耐震補強は、建物の主要な構造物となる基礎や土台部柱・梁・壁・天井などに適切な補強を行います。具体的な方法としては、基礎を鉄筋コンクリート造のベタ基礎にしたり、耐力壁の取付けや構造用合板で壁を強化していきます。
また、柱と梁の接合部分には耐震金具を取付けて補強を行うこともあります。
耐震診断
耐震補強工事を行うにあたり、まずは住宅の「耐震診断」を行っておく必要があります。耐震診断の依頼先や耐震診断の流れについても把握しておきましょう。
耐震診断とは
「耐震診断」は、建物が地震時に被害を受ける可能性があるかどうかを知るためのものです。そして耐震診断により建物の弱点を明らかにして、適切な箇所に耐震補強工事を行うための目安となる重要なものになります。
特に1981年年6月以前に建てられた建物は「旧建築基準法」に基づき設計されているため、大きな地震に耐えることができる耐震性能を保有していない可能性が高くなっています。そして2000年には、木造住宅において新しく新築時の地盤調査が義務付けられたリ、耐力壁をバランスよく配置すること、使用する筋交いなどの耐震金具の種類が明確化されるなど新しく基準が定められたものもあります。
よって1981年6月以降、「新耐震基準」に基づき設計された建物の場合も、建物に劣化等がみられる場合には耐震診断をして地震に備えておく必要があるでしょう。
耐震診断の依頼先
耐震診断は、リフォーム会社やハウスメーカー、工務店、建築設計事務所などが行っています。各都道府県や各市区町村には耐震診断を行える業者が登録されています。また耐震診断に入る前に、専門家による耐震診断が必要かどうかのアドバイザーの派遣を無料で行っているところもあるようです。耐震診断を検討されている方は、お住まいの役所に問い合わせてみると良いでしょう。
その他にも「一般財団法人 日本建築防災協会」のホームページにも、耐震診断を行える建築設計事務所が各都道府県、各市町村ごとに記載されているページが設けられているので参考にしてみて下さい。
耐震診断の流れ
耐震診断の主な流れは「予備審査」、「現地調査」、「詳細診断」、「耐震性能の評価」、「診断結果により耐震補強の計画を立てる」といった順番になります。そして診断結果の設計書をリフォーム業者などに提示し、耐震補強工事の見積書を作成してもらい工事に取りかかっていくことになります。
・予備調査
予備調査には、耐震診断に必要となる書類をそろえておく必要があります。建物の構造に関する図面類は必ず必要になるので、書類がそろわない場合は、新たに現地の測量をして設計事務所やコンサルタントに図面を作成してもらうことになります。
耐震診断士は、建物の概要(竣工年・用途・延べ床面積・構造種別など)や使用履歴(増改築・改修)、設計図書(構造図)、構造計算書などの内容を確認して診断レベルを判断します。
・現地調査
現地調査は、診断レベルに応じて必要な調査を行います。調査は目視による基礎・地盤、外壁の劣化状況、部材寸法や配筋状況などの調査の他、コンクリート強度等の検査を行います。
・詳細診断
詳細診断には「第一次診断」「第二次診断」「第三次診断」と複数の方法があり、それぞれの診断内容などは異なります。
- 「第一次診断」
- 壁の多い建物が対象となり、図面の柱や壁の断面積から構造耐震指標を計算する方法です。
- 「第二次診断」
- 柱や壁の強度や靭性(じんせい)を考慮して柱や壁の断面積、鉄筋量などから構造耐震指標を計算する方法です。
- 「第三次診断」
- 柱や壁、梁の強度を考慮して柱や壁の断面積、鉄筋量などから構造耐震指標を計算する方法です。
・耐震性能の評価
調査結果をもとに、耐震性能は以下のような4段階で評価され、1.0未満の場合は何らかの耐震補強が必要になります。
- 1.5以上:倒壊しない
- 1.0以上1.5未満:倒壊する可能性は低い
- 0.7以上1.0未満:倒壊する可能性がある
- 0.7未満:倒壊する可能性が高い
・耐震補強の計画を立てる
診断結果について診断士から、耐震補強が必要な箇所の説明を受けます。そして希望する予算などを伝えて、耐震補強工事の計画書と設計書を作成してもらいます。
・リフォーム業者に見積を依頼する
診断士から作成してもらった耐震補強工事の計画書と設計書をリフォーム業者に提示をして、耐震補強工事の見積書を作成してもらいます。見積は複数の業者に依頼をして、しっかりと比較検討をされることをおすすめします。
耐震補強工事の内容
耐震補強工事は主に建物の基礎部分や壁・梁・柱を補強したり、屋根の軽量化などを行います。
建物の基礎部分の補強
・鉄筋コンクリートの増し打ち
建物の基礎部分に鉄筋が入っていないと、引っ張りに対抗できないため、ひび割れやクラックができやすくなります。当然ですが基礎部分に欠陥があると、地震が起きた際に建物を支えることができなくなってしまうので大変危険な状態になってしまいます。
鉄筋の入っていない無筋コンクリート基礎の場合は、既存の基礎の内側や外側に耐震性の高い鉄筋コンクリートを増し打ちして補強します。そして基礎部分にひび割れやクラックが入っている箇所は、樹脂などを注入して補修を行います。
・アラミド繊維・炭素繊維を貼る
鉄筋コンクリートの増し打ちの他にも、「アラミド繊維」や「炭素繊維」といった強度のあるシート状の補強材を、基礎部分に貼って基礎の強度を高めるという方法もあります。アラミド繊維や炭素繊維は、タイヤや防火服、飛行機などにも使用されています。これらは布のような柔らかい素材で、短時間で補強が行えます。この方法であれば、コストも削減できるほか、大規模な解体などをする必要もありません。
・ベタ基礎をつくる・布基礎の補強
以前の木造住宅の基礎は布基礎が主流でしたが、最近の木造住宅の基礎はベタ基礎が主流となっています。ベタ基礎は建物の地盤に基礎をつくるという工法になります。ジャッキアップをして基礎を施工していきますが、ジャッキアップができない場合は、既存の基礎を新しい基礎で挟み込むサンドイッチ工法などを行います。また布基礎もベタ基礎と同様に、ジャッキアップをして布基礎を補強していきます。
建物の壁の補強
・構造用合板・筋交い・耐震補強金物で補強する
壁の補強方法の一つに既存の壁を取り壊して、構造用合板や耐震用補強金物、筋交いという構造材を取付けて新しい壁をつくるという方法があります。その他には、既存の壁が解体できない状態であったり、費用をおさえたいという場合は、真壁などの上に直接構造用合板を貼り付けたり、筋交いの取付け、耐震補強金物で補強するという方法があります。
またこの方法は、強度のない間仕切り壁の補強にも有効です。これにより間仕切り壁を、横揺れに強く強度のある耐力壁にすることができます。そしてポイントになるのが、耐力壁をバランスよく配置するということです。強い耐震壁を部分的に入れてしまうと、家全体のバランスが崩れてしまう可能性があるので、耐震壁の配置はとても重要になります。
そして構造用合板は、地震に対して耐えることのできる壁で、JASの基準をクリアしていなければ、その効果は期待できないとされているので注意が必要になります。
屋根の軽量化
木造住宅などに使用されている瓦は、重いので建物にかかる重量も大きくなってしまうため、地震が起きた際には建物が倒壊してしまう恐れがあり大変危険です。瓦屋根をガルバリウム鋼板などの軽い屋根材に変えることで、屋根を軽量化することができ、耐震性を高めることができます。屋根の軽量化工事は、住宅に住みながら行うことができるので工事中、仮住まいをしなければならないということもありません。
腐朽箇所の修繕
建物の土台や柱がシロアリによる被害を受けている場合は、耐震性が低下しているので早めに修繕する必要があります。このような場合は、土台の取り替えや柱の腐っている部分の修繕(柱の根継ぎ)を行います。また柱や土台の接合部分には耐震用補強金物を使用しますが、柱と筋交い部分には筋交いプレート、土台と柱部分にはホールダン金物といった、適材適所に適切な耐震用補強金物を使用することが重要になります。そして新しく使用する木材には、腐食を防ぐ防腐処理や、シロアリを防ぐ防蟻処理を行うことも大切です。
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